ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
それ以来、男はよくやってきて、僕に漢字を教えてくれるようになった。
親しくしてくれる大人が珍しくてうれしかった僕は、聞かれるまま、ペラペラといろんなことを話していた。
屋敷内の様子、見張りの数、隠し部屋の位置、抜け道の入口、武器庫の中身……
僕は何もわかっていなかった。
男は僕を利用していただけだった。
ファミリーを確実に追い詰め、黄を仕留めるために。
黄の死体をはさんで、男と目が合った時。
僕は、自分も殺されるんだろうと覚悟した。
けれど。
男はそのまま視線を逸らし……抜け道の穴へと消えた。
<後から後悔したんでしょう? 僕を生かしておいたことに。だから自分の目の届くところに引き取って、監視を続けた>
最初は、男を公安の関係者だとばかり思っていた。
真実を知ったのは、SDにスカウトされてシンガポールを訪れ、本社で総帥に引き合わされた時だった。
<驚きましたよ。まさか世界経済の中枢に君臨し、歴代最高と讃えられるCEOその人が、殺人犯とはね>
わざとあけすけに言うと、ピクリとその白い眉が動いた。