ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
<僕がグループと決別する道を選択したことに、慌てたんでしょう? ついに自分の罪が暴かれるんじゃないかって。だから総帥の椅子をチラつかせて、僕を縛り付けようとした>
言葉を切って、左右へゆっくり、見せつけるように首を振る。
<今更大昔の罪を告発する気なんて全くありません。興味もない。でも……もしあなたが僕の大切な人たちを巻き込もうとするなら、僕は全力で、あなたの敵に回りますよ。あなたもリーズグループも、容赦しません。どんな手を使っても、必ず追い詰めてみせます>
決意を込めて視線を向ける先。
<……ずっと、わからなかったことがある>
奇妙なほど冷静な声がした。
その表情には、焦りも恐怖も怒りも、何も浮かんでなくて。
ただ夜の海のような、凪いだ静けさだけがあった。
<……何です?>
もっとムキになって、反論してくるかと思ったのに……?
<黄の死が自殺だったと、証言したのはなぜだ?>
この人は、認めている。
黄を殺したのが自分だと、否定するつもりも誤魔化すつもりもないのだと理解して……こくりと、小さく喉が鳴った。
揺れる視線を、そろそろと自分の両手へと下ろす。
記憶の向こう、僕の手が握っているのは、その小さな手に不釣り合いな、重たい拳銃だ。そして、その向こうには、赤いヘビのようにうねる血だまり……