ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

僕にも、わからない。
どうしてあの時、床に落ちていた銃を拾ったのか。どうして嘘の証言をしたのか。

――お父さんが部屋に入ってきて、銃を自分に……。ぼくは、お父さんが死のうとしてるとわかってびっくりして、やめてって飛びついたんだけど。でも間に合わなくて……


一発目は、背後からだった。
公安だってわかっていただろう、僕の言葉が嘘だって。

現にシンシアだって、ずっと疑っていた――『あの老板が、自殺なんてするはずないわ』と。

僕が無事だったのは、一重に関係者全員が、“そういうことにしておいた方がいい”と、判断したからにすぎない。
場合によっては、僕が殺人犯として逮捕されていた可能性だってある。
そんな危険を冒してまで、なぜ僕は、この人をかばったのか……

<……わかりません>

総帥が、不審そうに眉をはね上げた。

<ほんとに、わからないんです。ただ……>
<ただ?>

<僕は、あなたから漢字を教えてもらうあの時間が、とても好きでした>

騙されていたとしても。利用されていたとしても。
それでも、あのひとときが僕の中で色あせることはなかった。

褒めてもらえること、優しい眼差しで見つめられること、
存在を認めてもらえること――
それはきっと、幼い僕が渇望していた何か、だったから。

< 332 / 394 >

この作品をシェア

pagetop