ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
「おいしいベトナム料理のお店を見つけたんですよ。ヘルシーでいいでしょう? 今日のランチはそこにしませんか?」
私の手から荷物を取って勝手に歩き出してしまうその人を、急いで追いかける。
「き、霧島さんっ……あの」
「今日の検診はどうでした?」
「ええと、それはあの、順調だって」
「それはよかった」
以前のサイボーグフェイスは、完全なる演技だったらしい。
ダテだったらしい眼鏡も、今はもうなくて。
別人みたいに甘い素顔を晒して口元を綻ばせる彼に、あちこちからまた悲鳴が上がった。
――あの人、お腹大きいよ。奥さんじゃない?
――いいなぁ。旦那さんかっこよくて。
――うちの旦那と交換してほしい~!
いやいやいや、違うんです。
この人は夫じゃないんです!
心の中で突っ込みつつ。
その場で騒ぎ立てることもできなくて、視線を落としたまま彼に従った。