ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

ハッと顔を上げると、そこはもう会社のビルのエントランスだった。
どうやって戻ってきたんだろう。

自分に呆れつつ振り返ると。
ブリーフケースを片手に、颯爽と近づいてくる新条部長が目に入る。

「部長も今お戻りですか、お疲れ様です」

「おう、おつか――……」


停止ボタンを押したみたいに。
唐突に部長が言葉を切り、その歩みをピタリと止めた。

ん? 何?

顔を上向けると、絶句してるレアな部長がいて……
その視線が、私のカバンに注がれてることに気づき、ギョッとした。

うわっ!
マタニティマークっっ!

「お前、それ……」

しししまった……
部長が出張から戻ったら話そうと思ってて……最近はライアンのことで頭がいっぱいで。
すっかり忘れてた。

想定外のタイミングで、何も用意はできてない。当然頭は真っ白だ。
肩をすぼめながら、「は、あの実は……」って言葉を詰まらせる私の腕が、ぐいっと引かれた。

「ちょっと来い」
「え? ええっと、部長っ」

そして私は、強制的に連行されたのだった。

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