ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
――お父さんはいるかな? お仕事の話がしたいんだけど。
――ごめんなさい。パパは今、お風呂に入ってます。
――あぁそうか。じゃあ飛鳥さん……ママにかわってもらえる?
伝言でもお願いしようかと、何気なく聞いたんだが。
彼は、わずかなためらいもなく実に無邪気に、言い放った。
――ママもお風呂です。2人は今、アッチッチです!
ガタガタガタッて。
リアルに椅子から転げ落ちたんだよなオレ。
すぐに、飛鳥さんじゃない女性の英語が後ろで響いた。
――《坊ちゃま! 何てことおっしゃってるんですかぁああ!》
――《えーだってパパが言ったんだよ。「今日はママとパパ、アッチッチだから、イイコでマリーと一緒に寝るんだよ」ってー。ねえ“アッチッチ”って、日本語? 英語? それとも中国語?》
聞き取りやすい、正確なクイーンズイングリッシュに舌を巻く。
この年で、もうバイリンガルか。
――《まぁそんなことおっしゃって! とにかく、その携帯をマリーにお渡しください》
――《えーやだやだー!》
しばらく、きゃっきゃと楽しそうな笑い声と、バタバタ駆けまわる音が聞こえ。
――た、大変失礼いたしました、吾妻様。
静かになったなと思ったら、げっそりと疲れたような声がした。