ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
「お客さん、お宅の前、なんか事件みたいですよ?」
「え?」
もうそろそろ着く頃かな、とカバンの中のお財布を探っていたら、そんな運転手さんの声が聞こえた。
フロントガラスに目をやれば、確かにうちのマンションの入り口付近に、マスコミらしき人たちがカメラやマイクを手に集まってて。
普段は静かな住宅街が、騒然としてる。
何? なんだろう?
事件? 泥棒とか?
それにしては、警察っぽい人はいないけど……と首をひねりながらも、少し手前で停めてもらい、タクシーを降りた。
「試写会場はもう出たんだろ?」
「向こうはそう言ってるけど。まかれたらしいんだよ」
「くそっやってくれるじゃねえか」
「なあ、一緒に来てる奴からコメントとれねえの? 監督とか共演者とかさ」
「今聞いてるよ。ちょっと待てって」
中継車両と思われるバンの中と外、まくしたてるように話す男の人たちの会話が漏れ聞こえた。
どうやら誰か、有名人を追いかけてるっぽいけど。
そんな人、このあたりに住んでたっけ?
まぁ私には関係ないか、と構わずエントランスへと足を向けた途端。
ぐいっ――
腕を、引っぱられた。