ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「Hello?」

彼が英語で答え、そのまま早口で会話してる。
なんとなく、待ち合わせ場所を確認しているような気もするけど。
私の英語力じゃ、それ以上はっきりしたことは聞き取れない。

何も、わからない。

電話の相手も、言葉の意味も。
彼の心も、行動も……


「飛鳥? まだそこにいる?」

通話を終えたらしい、彼の声がした。

「ごめん。もう行かないといけないんだ。また連絡するから――……愛してるよ」

オマケみたいに付け加えられた、愛の言葉。
余裕をなくした頭では冷静に受け入れることなんてできなくて、空々しく通り過ぎるだけだった。

遠ざかっていく足音。
玄関ドアの開閉音――

それらをじっと、身じろぎもせずに聞いていた。


二度と彼が戻ってこないような、そんな焦燥感に襲われ。
カーペットに爪を立てて、こみ上げてくるものをぎゅうっと堪えた。


どうしてこんな風になっちゃうんだろう……

まだ目立たない、平らなお腹を撫でながら、高ぶる感情を必死で静める。


ねえライアン……
私たち、大丈夫だよね?


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