ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
カチャ……
遠慮がちに開いたドアを背中で感じて、ベッドの中で目を開けた。
「ライアン?」
音の方へ視線をやると、常夜灯にぼんやり照らされて、パジャマ姿のライアンが見えた。
「まだ起きてたの? 睡眠不足はよくないよ」
困ったようにくしゃりと金髪をかき上げた彼が、ドアを閉めて近づいてくる。
「ライアンこそ。明日早いって言ってたのに。こんな時間まで仕事なんて……」
やっぱり……疲れてるのかも。
夕食の時も、どことなくぼんやりしてて。
病院でのことを話しても、エコー写真を見せても、なんとなく上の空だった。
食べ終わったら、「まだやらなきゃいけないこと残ってるんだ。飛鳥は先に寝てて」なんて言って、そそくさと書斎にこもってしまうし。
「僕も相当、ジャパニーズスタイルが身についてきたってことじゃない? 家に帰ってまで働いてるなんてさ」
冗談めかした声に続いて、キシリとわずかにベッドが沈んだ。
「ねえ、伊藤くん、なんて言ってた? 協力してくれるって?」
彼の方へ体を向けながら尋ねる。
そう、その話もまだ全然、聞けてないのよね。
「飛鳥はもう、この件には関わる必要ないよ。忘れればいい」
「でもっ……ニセモノと会ったのは私だけでしょ。だったら確かめることができるのも、私だけじゃない? ニセモノの正体を突き止めることができたら――」
「飛鳥」
少しキツめの声が、私を制した。
「君は何も、気にしなくていい」