ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
私だって、知ってるじゃない。
彼が上を目指したがってたこと。
世界最大規模の企業組織、そのトップ。
確かに、実力と才能を試すのに、これ以上の舞台はない。
ライアンは、総帥の後を継ぐつもりなんじゃないだろうか。
そしてその時隣にいるべきは、私じゃないって。
もっとふさわしい人がいるって気づいて。
だから段々距離をおいて……いずれ、シンガポールへ行くために?
白い紙に、ポツンと落ちた一点の染み。
それは止める間もなくジワリと広がっていく。
不安から疑惑へ。
気持ちが侵食されていく。
だって。
そう考えれば、全部つじつまが合うもの。
今の私の、平和そのものの状況。
ニセ秘書だって接触してこないし、野球帽の男も現れなくなった。
反対に、御曹司としての彼は、広く認知されるようになってる。
それって。
私の知らない間に、もう彼と総帥で、約束ができてるからじゃ……
「それで、あのオスカー女優と……」
「まぁ飛鳥様、あんなネットの情報なんかを信じてるんですか?」
「でも……彼女とホテルでって……」
あの報道の、すべてが嘘とは思えない。
火のないところに煙は立たないって言うし……
考えれば考えるほど、ネガティブな想像しかできなくなっていく私の耳に。
ふいに、「もうずいぶん昔のことですが」と、静かな声が聞こえた。