ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「春フェスのイベント準備、そんなにお忙しいんですか?」

「そうなんですよ、広報になんでも押し付ければいいと思ってるんだからなぁみんな! 残業続きでもう、眠くて……失礼」

あくびをかみ殺しながら、会議室のテーブル上で書類をとんとん整えている男性は、オオタフーズの広報部主任・樋口さんだ。

「ですからコレ、まとめていただいて助かりましたよ」

リリィという雑誌が主催するイベントが来週末に迫っていて、通常業務と並行してその準備も任されてしまった彼は、もうてんやわんやらしい。
そういえば樋口さんの恋人・ラムちゃんも、最近デートしてくれないんですぅとか、ぼやいてたっけ。

そんなに忙しいってことは……

「ぜひレシピコンテストの第二弾を、とご提案させていただきたかったんですが、イベントの後にした方がよさそうですね?」

せっかくできたコネクションは生かしたいけど。
バタバタしてる時にごり押ししても、迷惑なだけだろうし。
ここはいったん、退くか。

テーブルの上に用意していた提案書へ、チラリと未練を残しながら言うと。

「あぁ、もう作ってくださってたんですか? じゃあそれはいただきます」

彼があっさり手を差し出すから、こっちはびっくりだ。
「えっと……よろしいんですか?」

「もちろんです。前回のキャンペーン、ソルティハーブが検索ワードのトップ10入りしましたし、上層部も出来上がりを気に入ってて……何より大河原がね、あなたともう一度仕事したいと」

あのオニガワラが、ですよ? こんなこと、ものすごく珍しいんですよ?
秘密を打ち明けるように言われて、胸の内がじわっと温かくなる。
自分の仕事が認められるっていうのは、いつでも嬉しいものだ。

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