ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
提案書を手渡して、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。では、ぜひまた、よろしくお願いいたします」
「真杉さん、そのぅ……大丈夫ですか? いろいろ」
ふいに。
ぎこちない声がして顔をあげると、長い首をすくめるようにした彼が、こちらをそろりと窺っている。
樋口さんが、私とライアンの関係を知る数少ない一人だということを思い出して、なんとか笑顔を取り繕った。
「はい、いつも通りです。ネットの情報なんて信じてませんし」
努めて明るい声音で言うと、彼はホッとしたように肩の力を抜いた。
「よかった。大河原もお二人のこと、気にしていたので」
う……大河原さんまで?
「ご心配おかけして、申し訳ありません」
ここは一度、ちゃんと会って、元気なところをアピールしておいた方がいいかもしれない。
「大河原部長にも、久しぶりにご挨拶させていただきたいんですが……今日はご不在のようですね?」
ここ、会議室へ来る前。
受付で確認してみたら、一日外だって言われたのよね。
「そうなんですよ。最近、五反田の研究所の方へこもってましてね、本社にはほとんど顔を出さないんです」
「そうなんですか……」
がっかりする私を見て、樋口さんがふと、悪戯っぽく口角を上げた。
「でも春フェスには連れて行こうと思ってるので、その時会えますよ」