ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

春フェス、って来週の?
あれ、それって……

「大河原部長、以前行かないとおっしゃってませんでした?」

樋口さん自身も言ってなかったっけ。
取引先の担当女史にロックオンされちゃったせいで、そういうイベントものを大河原部長が避けてるとかって。


「ええ、ですから引きずってでも、連れていくんですよ」

力強く宣言した樋口さんは、そんなに大事なイベントなんだろうかと首をひねる私に、微苦笑を向けた。

「大河原のお見合いも兼ねてるんで」

「お、お見合い!?」
想定外のワードだったから、目が点になってしまう。

「あちこちから頼まれてるんですよね。ぜひお近づきになりたいから、連れて来いって。他社さんの担当女史たちから」

「はぁ……な、なるほど……」

そういえば、春フェスを主宰するリリィは、ママ向けの情報誌。
編集部関係者や関連スポンサーの広報には、女性が多い、かもしれない。

「でも大河原部長、婚約してた方のこと、相当想ってらしたんじゃ……?」

「ええ確かに、未だに引きずってますね、あれは。でももう20年以上も前の話ですよ? いい加減前に進まないとダメでしょう」

「そうでしょうか……」

「そういえば真杉さんに以前、お聞きしましたよね。飛鳥マジックの話」

打ち上げの席でのことだな、と思い出しながら頷くと、
樋口さんがぐいっとテーブルへ身を乗り出してきた。

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