僕らは春を迎えない
空回りで、
「重役出勤」
「平常運転」
「おは」
「よう」
教室窓際後ろから二番めの席。椅子に座ってぱたぱた足を動かして待ちわびていた選手のご来場に思いっきり手を突き出して挨拶したのに、やつは一瞥をくれるなり泥のように隣の席に着くと死んだ。
新聞配達のアルバイトをしている日野が毎日、学校に来る前に原付で町内を一周しているというのは最近になって知ったこと。なんでも小遣い稼ぎだとかなんとか。
すっかり疲弊しきった横腹をつついてやるとときたまにガチで怒られるからやらない。今日はボルテージマックス疲れみたいだ。要するにヒットポイント残り1。
だから私も同じように机にぺたんと横っ面をつけてみたら、その正面。霞んだ目が余力を振り絞って私を映した。
「ひの」
「ぉん」
「ひの」
「なんよ」
「ネズミーランド行きたい」
そっぽを向かれた。なんで、と座席の下を蹴ると半目に睨まれる。白目だった。
今朝登校したら、めちゃモテ女子で有名な鈴木さんが頭に独特なカチューシャをしていた。何のカチューシャかわからずに目を丸くする彼女が言うにはこうだ。
「昨日彼氏とネズミーランド行ってきた」
「えー、彼氏って二組の圭介くん?」
「そーっ。で、これ買ってもらっちゃいましたー」
「いや、学校に付けてくるとか何痛すぎでしょ」
「これ見よがしに自慢してんのさ」
「爆ぜろ!!リア充爆ぜろー!!」
うきーっ!っと無数の女子数名たちの恨みを買って引っ掻き回される鈴木さんはそれでも幸せそうで。自分の席で日野まだかなーってそんな様子を見ながら考えていたら、鈴木さんと目があったのだ。
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