僕らは春を迎えない
「ぐいっと飲め」
昼休み。散々な結果に終わったLHR以降、落胆してしまった薮内くんを探していたら一階渡り廊下の隅っこに座っていた。
購買の自販機でりんごジュースのパックを頭上からぶら下げると、薮内くんはそれを黙って受け取る。
「こんな時はさ、自棄ジュースに限るよ旦那」
「…自棄酒じゃなくて」
「二十歳超えたら可能」
隣お邪魔、と並んで腰を下ろすと、自分用に購入したぶどうジュースをちゅーっと飲む。うーんポリフェノール。舌で転がして堪能してからストローを離すと、ちゅこっ、と頼りない音がする。
薮内くんはりんごジュースを飲まなかった。風が彼の前髪を揺らす中、思い出した頃に言う。
「あのジオラマ、捨てようと思って」
「なんで!?だめだよあんなすごいのだったのに!」
「そう言うと思った。多分聞くと決心も揺らぐと思ったんだ。…もう捨てたよ」
一階渡り廊下は、すぐそばにゴミ焼却炉がある。
ここへきてどうして薮内くんが人通りの少ないこんなところにいたのかがわかって、言葉にならない虚しさに襲われた。今更納得したって、もう間に合わなかった。
「…あんなに頑張ったのに」
「努力が功を奏すなんて映画やドラマだけの綺麗事だ。
所詮は結果論。血の滲むような努力を超えたところで容赦なく突き付けてくるのが現実。こればっかりは嘘をつかない」
「でも形が無いと誰かに証明出来なかったよ、考えたこうしたこうしたいって口先だけじゃ簡単に言える。でも頭で思い描いたことに確かにみんなはじめは感嘆してたよ。努力が足りなかったんじゃない。私が下手くそだったんだ。薮内くんは悪くない」
何かに突き動かされて悔しい、なんて思ったこと、生きていてそう感じたことなかった。でも他の誰かにもひとたび関係してくるんだなって思ったら、人一倍、二倍も三倍も労力を要するんだってかえって奮い立たされた。
やる気を出させてくれたのはやる気のないクラスメイト達だった。逆境こそチャンスなのかもしれない。ふんす、と鼻息を噴き出すとずごーっとぶどうジュースを飲み干す。
「うん、言葉にしたらなんだか勇気が湧いてきた。今度はもっと上手くやるよ、薮内くんは指咥えて見てるといい!いだっ」
「…色々ツッコミどころ満載」
突然勢い任せに立ち上がったもんだから、建物のへりの部分にがす、と頭を強打した。しかもその際鉄骨のボルトみたいなところに髪の毛が絡まったらしく、身動ぎ出来ずに私はうぎゃーっと声をあげる。
「…何やってんの足立さん」
「囚われた!学校に囚われの身となった頭もげるいてて」
「かしてみな」
髪の毛ちぎらないで、とひいひい涙目で言ったら無言でなんとか救出してくれた。あざす、と合掌してから、それでも括っていた髪はぐしゃぐしゃになってしまった。