僕らは春を迎えない
「人間変えるのって難しいな」
首の付け根を掻いて俯いてしまう日野は、当時のことを知って今まで見てきたからこそ私よりきっと傷ついてたに違いない。少し掠れた語尾が消え入りそうだったから、比例するみたく私も下唇を噛んだ。
「…でも日野は薮内くんを見捨てなかったんでしょ。みんなが匙投げて相手にしなかった中、一人で本物の代わりにおもちゃのサバイバルナイフ渡してあげたんでしょ」
「…」
「薮内くん言ってたよ、“御守り”だって。
あれがなかったらもう戻れない場所に堕ちてたかもしれない。日野はそこに命綱をつけたんだ。
“今”の薮内くんを培ったのは、紛れもなく日野だよ」
力強く言ったら、俯いていた日野が少し顔を上げて私を見た。頼り無さげに揺れた瞳がそうかなって訊くから、そうだよってもう一度念を押す。そしたら糸が切れたみたく、笑った。
「…おれ、多香が彼女で良かった」
「いやおっっっそ」
「真似すんな」
殴る真似をする日野の手を避けてわーっと教室に戻る。全部が取り越し苦労に終わればいい。杞憂で済めばいいねって、そんな話をした。
その日の午後の授業を薮内くんは欠席し、翌日から彼は、学校に来なくなった。