僕らは春を迎えない
無作為な、
薮内くんが学校に来なくなって三日目の朝、例によって新聞配達を済ませて朝休みを爆睡に使う日野の机を登校するなりドコドコドコ、と叩いた。
んぁ、ってよだれ垂らして頭を持ち上げる間抜けな日野へ、私は叫ぶ。
「全然杞憂なんかじゃないじゃん!」
「るっせーな朝から何なんだよ」
「薮内くん学校に来てないぞ!?」
「だな」
「だなって」
「嫌になったんだろ、単純に。賛同得るために腕によりをかけてあんなジオラマまで作ってさ、プレゼンしたのに遊んでるとまで言われたんだぜ。来たくもなくなるだろ、おれが逆の立場でもそうする」
「でも!」
「心配しなくても薮内が学校に突然来なくなるのは今に始まったことじゃない。なんかしらあると割と休むんだよ、一週間とか二週間。で、ほとぼりが冷めた頃にぽっと学校に来る。頭いいから必須単位の授業だけ出席してな。昨日の選択書道、あいついたもん」
マジでか。そして日野、お前選択書道だったのか。私は音楽です。
こーん、と逆の意味での取り越し苦労を痛感しふらふらと隣の席に着席する。魂が抜けてなんなんだよ、と悪態をつく私に隣の彼氏はまたおやすみって寝てしまう始末だし。
でも、薮内くんが私と日野と揉めたあの一件で来なくなったのが全て、ってわけじゃないなら、まだ良かった、気がする。すうすう隣で寝息を立てる日野の後ろ髪を眺めながら、うんうん、と頷く。そう。一週間か二週間で学校に来てくれるなら。いや待てよ。
「………その頃にはもう文化祭終わってる」
❀
その日の5、6限のLHRの始まり。事態は急を要するとう急展開好きの担任によって、クラス出し物の準備の前に話し合いが設けられた。
議題は言わずもがな、こうだ。
「えー、というわけで…せっかく企画が進んでたバルーンリリースの件、体調不良でしばらく休養する薮内くんに代わってくれる人を探しています。あの案件は足立さんと薮内くんが二人で進めてたから一人じゃ厳しいし…誰かいないかしら」
シン、と静まり返る教室。
クラスメイトは相変わらず誰が名乗り出るかを全員が待っていて、同じクラスの仲間と呼ぶには私も誰一人として関心を持たなかったにしても、薄情なもんだと思った。
無特徴の巣窟。へのへのもへじ集団の中、視界の端で、一人の生徒が手を挙げる。