僕らは春を迎えない
「なんすか。ドメスティックバイオレンスですか」
「それなら日野が私にやるやつだろ」
「女から男も含まれるんだよバーカ」
「あー私も今受けたDVー。言葉の暴力ー。」
「くだんねー」
頼むから寝かせろ、と重役出勤を果たしたくせして今なお眠ろうとする青春の無駄遣い。ジト目をくれてあちょ、とチョップ真似をしてみたり、微睡みを邪魔して着々と日野の怒りボルテージを蓄積していく。
「あーあ。なんで私こんなのと付き合ってんだろ、理想はジャッキーチェンかブルース・リーなのに」
「それならおれだって佐々木希か泉里香がいいです」
「私要素しかないじゃん」
「ちょっと何言ってるかわかんないんですけど」
でし、と足を蹴ったらDV!と叫ばれた。寝不足でいよいよガチギレしてきた日野はそれでもぽこすこちょっかいを出す私にもう、と起き上がって眉を釣り上げる。
「つーかお前アホだろ真に受けちゃってさ、嫌味通じないとかなんなの天然も大概にしとけば」
「日野と違って心が純粋なんだよ悪かったな」
「はぁあ?“多香”じゃねーおまえなんか“馬鹿”だバカ」
「喧嘩なら買うけど」
「売ってんだよぼけ」
即座に言われて何をう、と日野の横髪に摑みかかる。そしたら真っ向から顔面を掴まれてぐいーっと後ろに仰け反った。むかつく。腹を蹴る。てめぇ、と足首を掴んできた日野の腕に食らいつく。
「ちょっとちょっと何やってんの二人とも!?」
「「だってこいつが!!」」
次第にエスカレートするさながら猿と犬の取っ組み合いに昼休み終了間際、着席したクラスメイトが何事かと群がって、私と日野を引っぺがす。乱れたセーラー服を直しながらシャーッと牙を剥いたら同じくカッターシャツのはだけた日野が中指を突き立てやがった。おま、ほんと。前歯折んぞこら。