僕らは春を迎えない
このやろう。
にわかに込み上げてくる苛立ちに一瞬また席を立ちかけて、でもすぐに目標がいなくなるとやむなく中腰になった体を元に戻す。なにそれ。ずるいぞ日野。私たちってお互いひとりぼっちだったからふたりで手を取り合ってこの現状を打破したんじゃないのかよ。お前にそんなネットワークがあったとか聞いてない。裏切りだ。
女子三人の群れにぽつりと紛れ込んだ男子若干1名は明らかに場違いなのに、それでも教室にひとりのぼっちよりかはよっぽど溶け込んで見えるから。
(…日野のくせに、)
唇を尖らせて机上に突っ伏して、LHRはじめから聞いてませんでした作戦を取りながら。
そこではじめてああ別れたんだな、なんて痛感すれども時すでに遅し。
けれどもいくらぼっちってったって、寝てて聞いていませんでしたが通用するほど集団生活も甘くない。定期的に話し合いの様子を窺って巡回する担任の目を欺くため、開始10分くらい経った頃黒板に思いつきで一言だけ書き残した。頭にイメージがあったのだけどその行事というか、行いの名前がすっかり抜け落ちていたのだ。
そんなとき「あああれな」って言ってくれる便利な日野ももういない。
後になって思えば半ば自棄だったと思う、私は。
ツッコミがいなければその行動が後に何をもたらすかの想像も出来ないというのに。