僕らは春を迎えない
「はい、じゃあ意見も出揃ったみたいだから出し物まとめていきたいと思いまーす」
文化祭実行委員と思しきクラスメイトの男女二名が教壇に立ち、与えられた30分でうちのクラスの面々が考えあぐねた案をふむふむ、と言いながらまとめていく。
演劇は三年生がやると決まっていて、一年生は展示、二年生は教室屋台なのでその中でもおばけ屋敷やらピタゴラ◯イッチ、メイド喫茶、アミューズメントパークなどとよく見る項目が軒を連ねる中。
実行委員二人の目がその単語の前で同じタイミングで立ち止まった。
「………」
「………」
「えーと」
「あのー。これ書いた人、誰?ちょっと説明欲しいんで起立願えますか?」
窓の外をぼんやり見ていると、クラスメイト数人がちらほらと私を見た。苦笑いや失笑している様子をなんとなく察しつつ、黒板に私が書いた字で実行委員を困らせていると気付くと起立する。
私は黒板にこう書いた。
【風船】
「足立さん、えっと、これは…」
「前にテレビで見たんです。こう、風船いっぱい膨らませて、空に向かって飛ばすやつ。超絶ロマンチックなイベント」
「…バルーンリリースのことかな?」
「それだ」
担任の声にぱちんと指を鳴らす。
「それ、やりたいなーって。やりましょう。やりたい」
これ以上に他の出し物は上回るものはないぜとガッツポーズをしたのに、クラスメイト全員の目は一度点になったのち。
どっ、と笑いが起きた。
けらけらとお腹を抱えるクラスメイトたちをきょろきょろと見回す。笑ってないのは隣の真顔バカだけだ。
なぜ、とたじろぐ私にはいはーい、とクラスメイトが起立する。日野を誘った髪の毛くるくるの子だった。
「物理的に無理だと思いまーす。やりたい気持ちはわかるけどさー、だってクラスの出し物だよ、他のクラスが執事カフェー、とかおばけ屋敷ー、とかする中私らのクラス教室がらんどうでバルーンリリース?いやいやマジ謎」
「あれって結婚式とかのイベントでやったりするけどめちゃくちゃお金かかるんでしょ。そんな経費どこにあるんですかー」
「もう時間の無駄なんで茶番は無視して早く進行しろよー」