只今、愛の診察中につき。

過去



黒い。

空も海も草花も土も
何もかもがどす黒い。

その世界の中心にわたしは居た。

膝を抱えてひとり泣いていた。

そして、わたし自身が流す涙も
真っ黒だった。

太陽なんて要らない。
空気も水も必要ない。

ただ、ただ
絶望だけがここにあるんだーー。

「……き」

ふいに誰かの声がわたしの鼓膜を揺らした。

俯(うつむ)いていたわたしはゆっくりと顔を上げる。

…誰ーー?

「ひ……っ。…ひ…びき…」

この声、知っている。
優しくて穏やかな。
小さい頃から大好きだったひとの声。

「ひびきちゃん」

「…おばあ、ちゃん?」

でも、目の前にいるのは紛れもなく『少女』で。

「ひびきちゃん。こんなところに来てはダメ」




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