只今、愛の診察中につき。
「ほーっ、我が弟ながら…」
わたしの車椅子を押してくれている馨さんが感嘆とも呆れているとも捉えられるようなため息を吐(つ)いた。
そんな馨さんを余所(よそ)に、わたしの緊張はピークを迎えようとしていた。
…言わなきゃ。さよならって、言わなきゃ。
覚悟を決める為に下を向きぎゅっと目を閉じる。
…よしっ!
パッと目を開くとその視界に飛び込んで来たのは男性ものの黒いシューズ。
え?
今度は、ソロリソロリと頭を上げると何とも美しい仏頂面した要さんがわたしの目の前に立っていた。
「…っっ!」
さよなら。言わなきゃなのに、いざ本人を前にすると何も言えない。
それに、当たり前だけど、要さん
相当お怒りになってらっしゃる…。
「かっ、かなめさ…ん。あのっ、さ、さ、さっ」
さよなら。
「そろそろ時間だよ。姉さんここまで響を連れてきてくれてありがとう。さっ、行くよ!」