只今、愛の診察中につき。
親だって、いくら叶にとはいえ体裁が悪くなることは言ったりしないと思うのに。

「…あー、諒太(りょうた)がな」

「弟が?」

「あぁ。親の目を盗んで教えに来てくれてな。自分は親の目が厳しくてなかなか見舞いに行ってやれないから俺に頼むって。自分も近いうち見舞いに行くようにするから宜しく伝えてくれって」

諒太。わたしの5つ離れた弟。
諒太だけがわたしの家族と言える唯一の家族。
わたしと違って優等生な諒太は今年受験生で良い高校に入れさせようと親が躍起になっていて、最近じゃ親はわたしと諒太が会話するのも「受験の妨げだ」と嫌がるほどだ。

それでも諒太は、こんな不出来な姉を気にかけてくれてる。

目頭がじんわりと熱くなった。

そんなわたしの頭を「良かったな」と優しく撫でてくれる叶。

橘 叶(たちばな かなう)
幼馴染みでわたしと同い年の二十歳。
長身で赤髪をツーブロックに分けていて両耳にはピアスをジャラジャラ着けていて、見た目はかなり派手だけど
それに負けないほど整った顔立ちをしているせいで
彼が働いているロック好きが集まるバーでは男女問わず大人気で彼がお店に出る日はいつにも増して大賑わいらしい。

「お前も1度遊びに来いよ。奢るぜ」って会う度に誘われるけど、わたしはどうも人が沢山いるところが苦手で
まだ1度も行けないでいる。
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