わがままな美人
「──副社長、園田さん」
言いたいことが山ほどありすぎて、何から言えばいいのかわからなくなってしまった香子と、今か今かと部下の反応を待っている千秋を呼んだのは、商品企画部の社員──大崎 澪だった。
「準備はできています。始めますか?」
「そうだな、始めよう」
結局、この話は中途半端に終わってしまった。
千秋は颯爽と歩き出し、先に会議室へ入ってしまう。
「どうかした? ケンカ?」
遅れて会議室に入ろうとする香子に、澪が小声でささやく。
今すぐにでも、この友人にすべてを話し、気持ちをスッキリさせたくなる。
が、今は仕事だ。
「あとで話す。……行くね」
「わかった」
二人は笑みを交わし、用意された席に着く。
第一会議室は、薄暗い。プロジェクターを使うため、ブラインドがすべて降ろされているのだ。
「──こちらの新商品は、メインターゲット層が働くオトナ女子なので、機能面は当然ながら、デザインにも妥協はできないと考えています。いくつかのデザイン案、それからカラーバリエーションの候補はお手元の資料にまとめてあります。まずはそちらをご覧ください」
新商品のプレゼンを行っているのは、商品企画部の部長織部 司(おりべ つかさ)。
今年で三十四歳とまだまだ若いが、既にいくつものヒット商品を生み出している。
そのサポートに徹しているのが、香子の友人、澪だ。
「質問等ございましたら、お願い致します」
プレゼンが終了し、会議室が明るくなっていく。全自動のブラインドは、ボタン一つで開閉ができるのでありがたい。
「価格設定が高く感じる」
発言したのは、千秋だった。長机に広げられた資料はすべて、目を通している。
「働くオトナ女子がターゲットだからこの価格なのかもしれないが、デザイン案を見るに、大学生……高校生も入れていいかもしれないな。そのあたりもターゲットに加えられると思うが、本当にこの価格で売り出すのか?」
「副社長の仰る通り、大学生や高校生も持てるデザインですし、興味を持ってくれるとも思います。ですがこの新商品は、長く使ってもらうことが第一のコンセプトです。仕事、プライベート、あらゆる場で長く愛用していただきたい。そのため、品質には徹底してこだわりたいと考えていますので、低価格での提供は難しいかと思います」
「なるほど。……デザインは最終的に何種類くらいで考えている?」
企画会議は滞りなく進んでいく。
ただこの会議は、長引くだろうな。
いつものことではあるが、千秋と司は仕事に妥協を許さないタイプ。
定期的に行われる企画会議にこの二人が揃えば、普段の会議よりもずっと時間がかかる。