わがままな美人
そして会議は、香子の予想を裏切ることなく、お昼休み直前ギリギリまで続いたのだった。
***
「さすがに疲れた」
お昼でにぎわう社員食堂で、澪は人気がある窓際の席をゲットし、そのままテーブルに突っ伏す。
「確かに疲れた。それにお腹も空いた」
お互い、既に昼食は確保している。
“SAGARA”本社の社員食堂は、安いだけでなく美味しいので、社員の多くは外へ行かずここで昼食を済ませることが多い。
昔は安くてまあまあの味だったらしいが、千秋が本格的に経営に携わるようになった折、“美味いものを食えばやる気が出る”、という理論のもと、社員食堂のメニューを一新させた。
あの俺様ぶりには振り回されるが、社員食堂を利用するたび、言葉には決して出さないが、千秋に感謝しているのだ。
「いっそのこと、あの二人だけで会議すればいいのに」
「言えてる。……あそこまで熱くなれるのはすごいと思うけど、ちょっと真似できないかも」
司のサポートに回っていた澪ですら、疲れ切っている。
澪は商品企画部に異動してから一年後、司の信頼を得て、いろいろと任されるようになっていた。主任も遠くないかもしれない。
いや、既に実質的な主任なのかも。
ただ澪本人は、役職がくっつくと動き辛くなるから嫌、と言っているが。
「あの企画、通ると思う?」
「通るんじゃない? 副社長があそこまで興味を示してたわけだし。……あんたの企画?」
「う~ん……企画の立案者は一応私、ってことになってるけど、それを形にしてくれたのは織部部長だから。ただ発案者としては、通ってくれると嬉しいけど、売れなかったら怖いし、とも思ってる」
「そっか。……やっぱ、商品を送り出すのって、緊張する?」
「そりゃね。何度経験しても、慣れない。やれることは全部やったはずなのに、不安ばっかり押し寄せて来るんだもん。だから部長をすごいな、って思う」
冷えないうちに、と二人はお昼を食べ始める。
「あの人、副社長にちょっと似てるよね」
「あ、そうかも。副社長の方がまだわかりやすい気はするけど。──織部部長って、自分のこととかあんまり話さないから、つかみにくいのよね」
「でも部下の休日を奪ったりはしないでしょ?」
「奪ったりはしないけど……あ~、またか」
さすがは友。
すべてを話さずとも、理解してくれた。
「今度はどこに行くの?」
「サクラ出版の創立六十周年記念祝賀会」
思い出すだけで憂鬱になってくる。