わがままな美人
バラエティー番組を見ながら、ナッツをつまみにお酒を飲む!
これに勝る至福の時を、香子は知らない。
「何買おうかなぁ……」
「あらあなた──」
気持ちが浮き立つ香子がエレベーターを降り、エントランスを通り抜けようとすると、ある女性に声をかけられた。
「園田さん、よね? 千秋さんの秘書の」
「あ、今村様……」
香子を呼び止めたのは、千秋の伯母・寿子だった。
一昨日、土曜日にキングホテルで顔を合わせたばかりなので、ちっとも久しぶりじゃない。
「ちょうどよかったわ。千秋さん、まだいるのかしら? 受付の子はいる、って言ったんだけど」
「まだおります。仕事があるようなので」
「また仕事……。いえ、大事なことよね。それにしてもあなた……」
「な、何か?」
寿子に見つめられ、香子は困惑してしまう。
土曜日の件、自分は少しも悪くないのだけど、つい謝ってしまいたくなる。
「あ、ごめんなさいね。ぶしつけにじろじろ見たりして。……あなた、美人ね。結婚してらっしゃる?」
香子の左手の薬指を、寿子が見る。
当然、そこに指輪はない。
「結婚はしていませんが……」
「じゃあお付き合いしている人は? まあ! いないの? そんなのもったいないわ! こんなにも美人なのに。良ければ、良い人を紹介しましょうか?」
矢継ぎ早に話す寿子に、香子はやっぱり、困ってしまう。
このぐらいの年代の人は、みんなこうなのだろうか?
何故か親戚のおばさんを思い出してしまう。
「お気持ちだけで結構ですので」
「遠慮しなくていいのよ。どんな殿方が好みかしら? こんなにも美人さんなんだもの。すぐに素敵な方が見つかるわ」
寿子は随分と押しが強い。
なんだか、千秋と重なる部分がある。
ただ千秋の方が“俺様感”が強くて、寿子はなんというか、“お節介”が強いような感じだ。
「本当にお気持ちだけで結構ですので。……副社長に会いにいらっしゃったんですよね? 良ければご案内しましょうか?」
どうにか寿子の興味を、自分から逸らしたい。
苦し紛れの作戦だが、なんと成功した。
「そうだったわ。案内は結構よ。何度か来てるもの」
「さようですか。では私は──」
「ああ、ちょっと待って」
ようやく帰れる、と思った香子に、寿子がバッグから名刺入れを取り出す。
「これ、私の連絡先。趣味程度だけど、お料理教室を開いてるの。気が変わったら、いつでも連絡してちょうだい。喜んで、素敵な伴侶を見つけるお手伝いをするわ」
「は、はぁ……」