わがままな美人

「なんでホテルにいるのかしら?」

 見つけ出したらまず、呼び出した理由について、ぜひ説明してもらいたい。

 せっかくのお休みだというのに、上司様のわがままを聞いてあげたのだ。

 しょうもない理由だったら、蹴っ飛ばしてやるから。

「園田くん」

 呼び出した張本人を見つけられないでいたら、向こうが先にこちらを見つけたようだ。

 香子が声のする方を見れば、そこには長身のイケメンが立っていた。

「副社長、一体どうし──」

 上司である副社長──相良 千秋に近づきながら、呼び出した理由について問おうと思った香子だったが、同席する女性陣を視界に入れた途端、瞬時にすべて理解した。

 この光景を、自分は何度か目にしたことがある。

 これはお見合いだ。
 副社長の大嫌いな、お見合い。

「千秋さん、まさか仕事、だなんて言わないわよね?」

 固まって二の句が継げない香子に代わって声を発したのは、千秋の伯母だった。

 香子はこの女性を知っている。
 副社長の父親、つまりは社長のお姉様だ。会社やパーティーなどで、挨拶したことがある。向こうがこちらを認識しているかは不明だが。

「仕事ですよ。なので退席をお許しください、伯母上」

 かしこまった千秋の物言いに、香子は内心、呆れてしまう。

「前回も仕事だと言って帰ったじゃありませんか! 今日こそ最後まで付き合ってもらいますよ。あなた──園田さん、だったわね。申し訳ないけど、千秋さんは一緒に行けません」

「彼女を困らせないでください。それに、僕は副社長なんですよ? その務めをきちんと果たさなくては」

 立ち上がったままの千秋と、椅子に座ったままの伯母。

 その間に挟まれた香子は、一体どうすればいいのか。

 困り果てていたら、意外なところから助け船が出された。

「寿子(ひさこ)さん、私は構いませんよ」

「紗也華さん、けど……」

 助け舟を出してくれたのは、見合い相手の女性──紗也華だった。

 香子は上司の見合い相手を横目で見て、お嬢様みたいな人ね、と思った。服装、メイク、雰囲気、すべてが清楚で、絵に描いたお嬢様のよう。

「お仕事だとおっしゃるんですもの。引き留めては申し訳ないです。千秋さん、またお時間のある日に、改めてお会いできますか?」

「────そうですね、機会があれば。伯母上、失礼しても?」

「…………紗也華さんがこう言うんです。私がどうこう言っても仕方ないでしょう」

 納得した様子ではないが、納得するしかない。
 伯母・寿子は不服そうな顔をしていたが、甥の千秋は満足げ。

「行こうか、園田くん」

「…………はぁ」


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