わがままな美人

 ただ香子は、ちっとも納得なんてできない。

 この男はまた、見合いから逃げる口実に私を使ったのだ。


 ***


 車を停めたホテルの駐車場に向かいながら、香子は歩調を早め、千秋の隣に並ぶ。

「副社長。いい加減、こういうことは控えていただきたいのですが」

「こういうことって?」

 隣に並んだ香子を、千秋が見下ろす。

 千秋は背が高い。確実に、百八十以上だ。
 おまけに足も長い。モデル顔負け。

 それだけじゃなく、顔も良い。
 隙なくセットされた黒髪と、健康的な色をした肌。
 いつも澄まして真意の見えない切れ長の瞳に、理想的な鼻筋、それから、傲慢な物言いが四六時中飛び出す、薄い唇──。

 これほど目の保養になる男は、そうそういない。

 だが完璧な容姿を手に入れた故なのか、この男は少々、性格に難がある。

「今更説明せずとも、おわかりのはずです」

 足を止め、睨むように千秋を見上げる。

「私は確かに秘書ですが、秘書にもプライベートというものがあります。特に今日は休日。急を要する用件であるなれば多少は納得できますが、お見合いから逃げる口実で呼び出されるのは、はっきり申し上げますと──完全に業務外、のことになります」

 駐車場はすぐそこ。
 このままいつものこと、と流して済ませてしまう方が一番楽だと知っている。

 だが今後も、今回のようなことが起こる可能性は非常に高い。
 今のうちに、やめてもらうべきだろう。
 他の秘書が被害にあう前に。

「私にも予定というものがありますので」

「──ハッ」

 言いたいことは全部言ってスッキリできた、と思ったのに、香子の言い分を、千秋は鼻で笑って吹き飛ばした。

 いかに上司と言えど、その態度は歓迎できたものじゃない。

 香子の眉間に、険しいしわが寄る。
 これじゃあ、せっかくの美人も台無しだ。

「君にあるのか?」

「何がです?」

「俺よりも優先すべき予定とやらが」

 なんて厚顔不遜な物言いだろうか。

 世界は自分を中心に回っているとでも思っているの?
 そんなわけないでしょ。
 私の中心は、私なのよ!

「私にも予定くらいあります」

「嘘だね」

 香子の返答を、千秋は間髪入れずに否定する。

「君にはないよ。俺以上に優先すべきことなんて。じゃなきゃ今、ここに君はいない」

「………………」

 堂々と言ってのける千秋に、香子は呆れて言葉が出てこない。

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