恋愛コンプレックス
六本木の洒落たバーではいつもの面子が顔を揃えている。彼女たちは私のことを「もも」と呼ぶ。本名が恭子であるから、もじりでもなんでもなくて、由来もはっきりしないままそう呼ばれるようになった。
扉を開けると、チリンとアンティークな鈴がなる。無精髭が様になっているマスターの前ではずきがスツールに座っている。短いスカートから伸びた白い足が交差して組まれているので、こちらから見るとパンティが見えそうだけど、絶対見えないアングルとしてカウンターの下に浮き上がっている。
「スプモーニ。」
はずきの隣に腰を下ろしてマスターにオーダーしてから私は視線を彼女に向けて笑顔をつくる。
突然現れても、決してはしゃいだ反応を見せない彼女はいつものような読み取りづらい微笑で私を迎えた。
「今日は一人晩酌じゃないんだね。」
嫌味のない口調ではずきは言って、今しがたマスターが差し出してくれたスプモーニに彼女のスコッチを軽く重ねた。カチンと乾いた音が涼しげに響く。
「家に帰るまで待てなくて。今日はろくでもない日だったから。」
私がスプモーニをジュースみたいに飲んで言うと、彼女は乾いた笑い声を出した。
「あんたはいつだってろくでもない日だって言うじゃない。また新人になめられたの?」
クラブのママみたいな穏やかな物言いに私は少しだけ癒される。はずきは昔から物事をスマートにこなす女だけれど決して私みたいなグズをなじったりしない。
「ううん。今日は、男。」
私が投げやりに呟くと、珍しくはずきはいくらか驚いた表情を見せた。
扉を開けると、チリンとアンティークな鈴がなる。無精髭が様になっているマスターの前ではずきがスツールに座っている。短いスカートから伸びた白い足が交差して組まれているので、こちらから見るとパンティが見えそうだけど、絶対見えないアングルとしてカウンターの下に浮き上がっている。
「スプモーニ。」
はずきの隣に腰を下ろしてマスターにオーダーしてから私は視線を彼女に向けて笑顔をつくる。
突然現れても、決してはしゃいだ反応を見せない彼女はいつものような読み取りづらい微笑で私を迎えた。
「今日は一人晩酌じゃないんだね。」
嫌味のない口調ではずきは言って、今しがたマスターが差し出してくれたスプモーニに彼女のスコッチを軽く重ねた。カチンと乾いた音が涼しげに響く。
「家に帰るまで待てなくて。今日はろくでもない日だったから。」
私がスプモーニをジュースみたいに飲んで言うと、彼女は乾いた笑い声を出した。
「あんたはいつだってろくでもない日だって言うじゃない。また新人になめられたの?」
クラブのママみたいな穏やかな物言いに私は少しだけ癒される。はずきは昔から物事をスマートにこなす女だけれど決して私みたいなグズをなじったりしない。
「ううん。今日は、男。」
私が投げやりに呟くと、珍しくはずきはいくらか驚いた表情を見せた。