恋愛コンプレックス
 しかしすぐにハズキは表情を変えていった。
 「でもなんだか今日は男絡みで憤慨されてるらしいわよ。」
 悪戯に笑って言うと、敦子はつられたように人見を輝かせて、はしゃいだように身を乗り出した。
 「何それ、またろくでもないのに捕まってるの?待って、言わないで。当てるから。」
 そういうと二人は足を組んで片手を眉間に当ててわざとらしく考えるポージングをとった。

 「実は浮浪者だった。」敦子が言って、私はブー、と言って首を左右に振った。

 「んー、セックスがイマイチだった?」ハズキが真面目な顔で言うので私は思わず吹き出しながらも首を振った。「あんたの視点で考えないでよ。」と言うとハズキはぶーたれた顔でえー、大事だようと言いつつまた考えふけった。
 
 「わかった!余命があと半年。」

 「憤慨はしないでしょ。」
 
 「DVだった。」

 「それは十一人目の男。」

 「未だに携帯持ってない。」
 
 「どうでもいいわよ。」

 「過去に人を殺してた。」

 「そんな事ばっかり言ってると訴えられるわよ?」
 そんな交互の言い合いが切れ切れになってきたところでハズキが回答を求めた。
しかし私は何をどう説明していいのかわからなくなってしまっていた。
 「何ていうかその人、欠点がないのよね。」
 
 消え入りそうに私の口をついて出たのはそんな言葉だった。
両脇の二人が一瞬沈黙よりも深く、押し黙った。
 「今、なんて?」
 ハズキが怪訝な表情で聞き返す。
 私はなんだかばつが悪くなってもごもごと口を動かした。

 「それって、良い事、じゃないの?」
肩すかしを食ったような顔で敦子が聞いた。私は本当になんと言えば伝わるのか考えぬいたが結果、伝わりようのないことなので思ったままに口に出した。

 
 
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