課長、恋しましょう!
「あ、課長、さては照れてますね? かわいっ。免疫なさそうですよね、課長」

「勝手に人をへたれ扱いするな」

信号が青になった。彼女の腕を振りほどいて、歩き始める。

「あっ、なんかいけずー」

と、彼女がローヒールを鳴らしながら、猫のように軽やかな足取りでついてくる。

こちとらみっともねぇ歩き方をしないようにするだけで精一杯だっつのに。なんだその洒落た歩き方。上品じゃねぇか。

そんな些細なとこで、彼女はしっかりした家で育ったんだなぁ、としょうもない感慨を抱く。いいぞ。その調子でがんばってくれ若いの。

「会社までデートしましょうよ課長! 競歩デートです!」

突拍子もない提案をしながら、むん、と両腕でマッスルポーズを取る彼女だが。

「パスだ。そんなことしたらシャツが汗臭くなる。おじさんの体臭を侮るなよ?」

「あらやだっ、私課長のにおい好きですよ? ちょうどよく臭いっていうか。下手にコロンとかつけてる人より断然好き」

「お前はにおいフェチか?」

「いいえ。気に入ってるのは課長のにおいだけです」

「……なんにしても競歩はパスだ」
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