幼馴染は恋をする

「お父さん?」

「そう、僕のお父さん。もう行かなきゃ」

「あ、そうだね」

「有り難う、おねえちゃん。バイバイ」

バイバイ。

そう言って走って来ているお父さんのほうへ駆けて行った。
…お迎えだったのかな。

ペットボトルにキャップをしてハンカチも一緒に鞄にしまった。絆創膏を入れていたケースもポケットにしまった。

あ。両手を繋いでしゃがみ込むと何か言い利かせてるようだった。
急に走っては駄目だとか、言われてるのかも。危ないもんね。ん?チラッとこっちを見た。また何か話してる。頭を撫でてる。あ、また見られた。立ち上がった。…ぁ、私も帰らなくちゃ。ずっと見ちゃった。
え?
手を繋いでこっちに来てる。こっちが帰る方向ってことかな。


「あの。…あっ。…ぁ、息子が親切にしてもらったみたいで。有り難うございました」

え?…あ。あ、はい。なんだかキョロキョロ後ろを見てしまった。私に言われてるような気がしなかったからだ。

「い、いいえ。丁度通りかかったので。ね?恵和君」

「うん。おねえちゃん」

「え?あ、こら。びっくりするから。…すみません、なれなれしくて」

確かにびっくりした。足に巻き付くように腕を回されたから。このくらいの時は先生にもよくするし。そんな感じでだよね。

「…大丈夫です」

頭を撫でた。フフッと笑うと離れた。頭撫でられたと言ってお父さんと手を繋いだ。

「先に出ちゃ駄目だっていつも言ってるんですけど、先生と話してるうちに駆け出してしまって」

ゆらゆらと繋いだ手を揺らしていた。

「だって、早く帰りたいのに」

「先生とお話もあるんだよ」

「いつも?いつも?」

「いつもじゃないよ」

…。

「あ、すみません。有り難うございました。恵和、お礼言って、帰ろう」

「うん、おねえちゃん有り難う、バイバイ」

「バイバイ。あ、さようなら」

「おやすみなさい」

頭を軽く下げられた。手を繋ぎ直して歩き出した。

…ネクタイ、少し緩めてあった。仕事、疲れたのかな。ぁ、追いかけて、走ったからかな、…フフフ。恵和君って言ってた。可愛かったな。お父さん、恵和君に凄く優しく話すんだ…。
でもちょっとびっくりしちゃったな。私みたいな中学生に丁寧な言葉で話をしてくれるなんて。…大人の人なのに。上からじゃなくて素敵な人だな。ぇ…あ、……え…………え?なに、…これ。
胸がキュンとした。



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