幼馴染は恋をする
一番言ってはいけないことなのに。
こんなに…お姉ちゃんと分け隔てなく育ててもらってるのに。
私だけが違う。
私はお父さんとお母さんの子供じゃない。お姉ちゃんと本当の姉妹じゃない。それは知ってる。
私の本当のお母さんは、お母さんの妹。
お母さんは、一人で私を生んで、そして死んだ。結婚はしていなかった。
今日からうちの子よって、小さい私はこの家の子になった。私にとってお父さんと呼ぶ人はお父さん一人だけ。死んだお母さんの記憶は殆どない。想像しようとしてももうぼんやりとしたシルエットとしてしか浮かばない。
私は幼い頃からちょっとした事に遭っていた。
知らないおじさんに声をかけられ、連れ去られそうになった事があった。それが最初の事。
小学生の頃には、よく解らなかったが、用務員のおじさんに呼ばれ建物の陰で写真を撮られた。私にしてみれば、どれもよく解らない事だった。ニコニコした知らないおじさんに手を繋がれた。優しい知っているおじさんにちょっとおいでと言われた。それだけだから。
それからも、何だかよく解らない事があった。どれも子供だったから解らなかった。男の人の癖というもの、知るはずもなかった。幼い子供が好きな男の人が居る。…ロリコン。今になって思えば、いたずら目的にだとか、だったのかも知れない。
お姉ちゃんが私に過保護なのは、そういう事、先に理解していたからだと思う。だから、私の様子がちょっと変だと凄く心配する。してくれる。何かあったの?って。お姉ちゃんには何でも言って、て。だから、誰かとつき合ってるって事も、それすら何となく心配される。…正当なつき合いでもだ。知らない人物だからだ。
自分自身、妙な事に遭ったという自覚がないから、男の人に過剰な警戒心があるということもないんだけど。
私の髪の毛は茶色い。明るい茶色をしている。自然にこの色だ。それと、瞳の色も明るい。
特にそれが目立つとも思わない。私はずっとこうだから。でも、そう思ってるのは自分だけで、人の目には特異に見えるのかも知れない。色白というのもあるからだろうか。
「何?急に呼び出しとか。珍しいじゃん」
リョータ君に連絡をした。
「うん、…話があって」
「あー、そういうの……あれでしょ。…とうとう来たか」
「え?」
「卒業したら会えなくなるし、それでってみたいな事でしょ?」
「…違う」
卒業を理由にではない。
「え?違うんだ、え、じゃあ、こんな感じって、何…」
…。
「……私…あのね……リョータ君…」
決めていても中々言い出しにくい。…はぁ、ちゃんと話すって決めたんだから…。
「あ、解った。解ってよって事?…なんだ、ごめん。そうか」
……え?…あ…う、そ。顔…両手で包まれた。
……ぁ…違うのに。…違う違う…。顔が近づいた。
「…あー、恥ずかしい…。こういう事でしょ?…ファーストキス、だね。俺との」
あ。唇が…触れてしまった。
「早くした方が良かった?言い辛いよね、キスしようなんて。俺はまだしない方がいいって思ってたから」
「あ」
違う…のに。…された。
「これからはさ、なるべく察するようにするから、ごめんでした。あー、雰囲気も作れなくてごめんね?」
「……違う」
「え?」
「違う…そうじゃなくて…私、好きな人ができたからって、言おうとしたの…それで、言い出し辛くて」
「え、……え゙?…嘘、ごめん。…俺、ダ、サ……ハズイ。……マジかよ。あー、え?じゃあ今のごめん、ごめん…本当、ごめん」
「…いいの、ごめん…大丈夫」
「はぁ…やっぱ、動かなかったんだ」
「え?」
「好きなのは誰かって、気がついたんだ。そういう事でしょ?」