幼馴染は恋をする
・内緒
「朝ちゃん」
「あ、こんにちは」
「こんな所で会うなんて、奇遇だね」
「あ、はい」
いつもの場所じゃない。商店街だ。柳内さんは買い物袋を持っていた。一人のようだ。
「ちょっと、お使いです。柳内さんは…」
お使いってことはないよね、普通に買い物かな。
「…急遽必要な物の買い出し。恵和が熱を出してね。それでなんだ」
袋を軽く持ち上げた。
「熱って、風邪ですか?」
「そうなんだ」
「大変ですね」
「大人とは違うから、具合が悪くても気がついてないと……駄目だよね、もっと早くに気がつけば良かったのに」
「あ、でも、私も小さい時、平気平気って、自分から言わなかったこともありましたよ?親だって、いつも体に触れてる訳じゃないし、朝なんでもなくても保育園から帰った段階で様子がおかしくなる事もあるから」
「有り難う。駄目な親を庇ってくれて」
「いえ、あ、あの…」
「あ、ごめんね、朝ちゃんもお使いなら早く帰らなきゃ。うちも恵和が待ってる」
「はい、そうですね、では」
「じゃあ。あ、手洗い、うがい、してね?」
「はい」
……何か、お手伝いできませんか?って、言おうとした。でも、帰られちゃった。仕方ないよ、恵和君大変なんだから。…私では何も出来ない。頼りなく見えちゃうだろうし、何か出来るとも思われないだろう。私に出来ることといったら、元気な恵和君と一緒に遊ぶことくらいだと思われてるだろう。
「朝?」
「あ、お姉ちゃん…」
「遅いから迎えに来た」
「ごめん…」
「ん?もう買ったの?」
「あ、うん」
「じゃあ、帰ろう?」
「…うん」
…。
「お姉ちゃん、これ」
「え?」
頼まれていたパン粉とアサリの剥き身の入ったスーパーの袋を渡した。
「私、ちょっと、…貴浩君に会ってくる。一時間くらいで帰る……会いたくなったの、…だから」
「あ、ちょっと、朝?」
…朝?…あ、あんなに走って。用でも思い出したのかな。貴浩君に会うなら大丈夫か…。
ごめん、お姉ちゃん。
まだ追いつけるかも知れないから。