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生はバランスを崩し、慌てて数歩足を踏みだした。


「もっと早く歩いて」


強い風が吹き抜けて、生の髪を揺らす。


それだけでバランスが崩れてしまい、今にも落下してしまいそうだ。


「最後まで渡り切れば終わるんだろ?」


「そうだね」


あたしは生の質問に頷いた。


でも、その気はなかった。


生は克己の優しさに付け込んで、死ぬとわかっていて浜辺で連れて来たのだ。


あたしが途中で許すワケがなかった。


そんなこととは知らない生は一歩一歩確実に足を前へと進めて行く。


元々バランス感覚がいいのか、徐々に慣れてきて歩くスピードも速くなってきた。


そして、フェンスの端までたどり着いた時、生は口元に笑みを浮かべた。


「できたぞ!」


そう言って目隠しに手をかける生。


あたしはその瞬間、杖を使って生の体を強く押していた。


渡り切ったことで完全に油断していた生は、あっけなく足を踏み外した。


あっと声を出す暇もなく落下していく生の体。


あたしと麻子ちゃんはその姿を見送るように、最後まで見つめていたのだった。
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