ストーリー
「勝手に乗ってよかったのかな」


観覧車に乗り込んで、あたしはそう呟いた。


「大丈夫だろ。ドアだって自動でしまったし、誰かに何か言われたらその時にお金を払えばいいだろ」


「うん……そうだよね?」


古いと思っていた観覧車のドアは、意外にも自動で開閉したのだ。


外観よりも新しいものなのかもしれない。


「意外と揺れないね」


乗っていると、ゴンドラの揺れはそれほど強くないことがわかり、安心できた。


窓から外を眺めてみると、普段大きく感じるビル群が小さく立ち並んでいる。


少しの敷地内にひしめき合って建っているのがよくわかった。


その時、あたしはある違和感に気が付いて眉を寄せた。


さっきまであたしたちがいた屋上遊園地に、今は誰の姿も見えなかったのだ。


姿が見えないだけじゃない。


あったはずの遊具まで見当たらなくなっていた。
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