ストーリー
☆☆☆

いくら現実から目をそらしていても、美春の死という事実は連絡網によって流れて来た。


「また、文芸部の子ね……」


母親がそう言い、深刻な表情で椅子に戻って来た。


美春のことが連絡網で流れて来たのは、ちょうど夕食を食べているときのことだった。


あたしは箸を止めて母親の顔を見つめる。


「文芸部でなにかあったのか?」


そう聞いて来たのは父親だった。


「……別に、なにもないよ」


あたしは父親から視線をそらせてそう答えた。


あたしたちが咲紀をイジメていた事実は、あの日記にしか残っていない。


あれさえ見つからなければ、あたしたちに罪はないのだ。


「本当か? なにかあるのなら、すぐに誰かに相談しないとダメだぞ?」


両親はあたしの身になにかがあるのではないかと、心配しているのだ。


でも、あたしが文芸部内でイジメなどに遭うことはまずありえなかった。


だって、文芸部の中ではあたしがリーダーなのだから。


「大丈夫だよ、心配しないで」


そう答えながらも、頭の中には美春の死がこびりついて離れなかった。


《美春は電車に撥ねられて死んでしまう》


咲紀は、どうしてあんなことを日記に書いたのだろうか……。
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