“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
「あの時は、どうやって母を励ました?」

「人の死って、乗り越えられるものじゃないんですよ。いつまでたっても悲しいですし、嘆く気持ちは尽きることはないです。人の死に対する気持ちをどうかしようと、思うのが間違いなんですよ。だからただ静かに、空気の如くラングロワ侯爵家の大奥様に付き添っていただけです」

「なるほど。だから、母はエリーをいたく気に入って、傍に置いていたのだろうな」

使用人に大事なのは、空気感なのかもしれない。私はきっと、ラングロワ侯爵家の大奥様の漂わせる空気で生きやすかったから、長く務めることができたのだろう。

「アリアンヌお嬢様が、私を気に入って傍に置くかはわからないです」

「いいや、きっと気に入る」

珍しく、ミシェル様は強い口調で言った。なぜ、そんな自信があるのかは謎だが。

「しかし、アリアンヌお嬢様は今、深く心を閉ざしている。今まで通り、気楽な場所ではないのかもしれない」

「それは、そうでしょう」

アリアンヌお嬢様は母を亡くし、義妹と王太子妃の立場を争うこととなる、物語に出てきそうな悲劇のヒロインだ。
彼女のために、私は何ができるのか。しっかり考えて、行動しなければならないだろう。
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