“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
ラングロワ侯爵邸から馬車で一時間ほど。大きな川にかかった煉瓦の橋を渡った先に、ルメートル公爵家があった。王都の郊外に位置する自然豊かなこの辺りは、公爵家の領地(エステイト)らしい。

「わあ──!」

瀟洒な城館はあまりにも大きく、そして美しい。広大な庭には、秋薔薇の花々が出迎えてくれる。見ているだけで馨しさを感じるようだ。

これから冬になるというのに、公爵家の庭には美しい花が咲き誇っている。

可愛らしいマーガレットに、華やかなアネモネ、艶やかなカトレアに麗しいクレチマス。それから、狐色の髪の若い男を庭の草陰に連れ込んだ熟女──え、熟女?

思いがけないものを発見し、ぎょっとする。見間違えたのではないかと、思わず身を乗り出して確認してみた。

間違いない。

騎士のような恰好をした男と、紫色のドレスを纏った四十代くらいの女性が、濃密な絡み合いをしていた。なぜ、こんなところで逢引きをしているのか。呆気に取られてしまう。

騎士の顔は見えないが、佇まいから若いことがわかる。一方、女性は鮮やかな赤い髪の派手で気が強そうな美人である。真っ赤な唇に口付けが落とされ、離れたあとは味わうように舌なめずりをしていた。

まったく、昼間から何をしているのか。

なんとなく目が離せないでいたら、一瞬女性と目が合ったような気がして、ビクリと体を震わせてしまう。
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