“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
先ほどの衝撃は、馬車が停まったことによるものだった。どうやら、目的地に辿り着いたようだ。

「えっと、アリアンヌお嬢様がお住まいになられているのは、本邸ではなく離れ、でしたっけ?」

「そうだ」

ミシェル様が先に下りて、外から「手を」と言って差し出してくれた。お姫様のような扱いに、キュンとしてしまう。ミシェル様はたぶん、女性全員に同じことをしているのだろうけれど。

女性に生まれてよかったと思いながら、ミシェル様の手を取って馬車を降りる。

鞄を持とうとしたが、ミシェル様に先を越されてしまった。

「ミシェル様、私、自分で持てます!」

「思っていた以上に、ずっしりしているな」

「全財産ですから」

道端にいる子猫を掴まえるように腕を大きく広げて鞄を取り返そうとしたが、ミシェル様はひらりと躱(かわ)した。
「ミシェル様~~!」

恨みがましく言ったら、ミシェル様はくつくつと笑いだした。普段、常に無表情なので、貴重な笑顔だろう。余程、私の鞄捕獲作戦の動きが面白かったのか。

「早く行こう。アリアンヌお嬢様が待っている」

「あ、はい。でも、鞄がー」

「鞄はいい」

ミシェル様は私が追い付けない速度で、どんどん先を歩いていった。
< 16 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop