自分より大切なもの



佐古
「あのすみませーん、後ろ通ってもいいっすかねー?」



椿
「あ?通りたきゃ勝手に通れよ!(怒)」




・・・何の確認??お前の家じゃん。




佐古
「あ、そうですよね、じゃあ失礼しますね!!(怒)」









・・・大切な時間、ね………。まぁ現実はこんなもんよ。





佐古
「んー……良い匂い。今日、何?」




 シャワーを浴び終わった佐古が、髪を乾かしながら冷蔵庫からペットボトルの緑茶を取り出す。




椿
「焼きそば。」



佐古
「やった!」



椿
「まだ出来ないよ。」



佐古
「あぁいいよ、ノートチェックして待ってる。」



椿
「うん。」




 ドスっとソファーに腰掛け、リュックから生徒達のノートを取り出し一冊ずつ確認する。ペットボトルの蓋を開けながらキッチンで料理する椿に聞こえるよう少し声を張って言った。




佐古
「お前ノート出して無ぇだろ!」



椿
「…………あ、忘れた。」



佐古
「はい、減点。」


佐古
「はい、減点。」




・・・くっそ………。焼きそば捨てんぞ、そんぐらい大目に見ろよこのクソ教師。




椿
「いいもーん、その分、宮田先生担当の体育で頑張るから!……張り切っちゃうから!!」



佐古
「ははぁ、もしかして俺を挑発しようとしてんの、君は?」



椿
「……別に何とも思わないくせに。」




 焼きそばを炒める音で佐古がこちらに向かって来る事に気付かない椿は、鼻歌を歌いながらさえ箸で輪切りのウインナーをひっくり返す。










箸を持つその手を掴み取り、もう片方の手で顔を抑える。そしてビックリする椿の口を自分の口で塞いだ。










椿
「……………!!!」



佐古
「焼きそばじゃなくてお前を食ってやろうか?なんつって。」



椿
「いや、や……焼きそばを食べて下さい!!」




・・・いや、違うんだ……突然過ぎて全然普通な事言っちゃった。何か可愛いこと言っとけ!可愛いこと……。




椿
「はい、ウインナー食べる?あーんして、あー……」




・・・ほらほらほら、良い感じじゃん。何かちょっと照れてるしこいつ、可愛い………。




 佐古の照れ顔に気を取られ、輪切りウインナーを掴んでいた箸を持つ手が緩んだ。




 ポト………。




 そしてウインナーは、悲しくキッチンに響き渡る効果音と共に床に落ちた。そんなウインナーの亡骸を見つめる二人……。何だか悲しい気持ちにすらなってきた。たった数秒前まで、あの子はこのフライパンの中で他の具材たちと楽しく踊り回って居たのだから……。




椿
「あ……ホラ、餌だよポチ。」




 椿がそう言って落ちたウインナーを指差した。




佐古
「張り倒すぞお前。」



椿
「元はと言えばあんたが余計な事したからじゃん。あんたがあんな事しなけりゃこの子は死なずに済んだ訳じゃん。」



佐古
「アホか、何がこの子だ。お前が生意気な事言ってんからだろ、大人をからかうと痛い目に遭うぞー。」



椿
「……お前に焼きそばを食う資格は無い!!」




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