自分より大切なもの
佐古
「………じゃあ今日はここまでな。宿題忘れんなよー。」
夏樹
「あーー疲れたーー、こんなんバイト代欲しいくらいだわー。」
愛
「間違いない。」
佐古
「……何でお前らが報酬貰えるんだよ(怒)」
夏樹
「おなか減ったー、メグー何か食べに行こー。」
愛
「賛成ー。」
佐古
「気を付けて帰れよー。」
二人がいなくなった途端に教室が静かになる。教卓で後片付けをしながら佐古が話し出した。
佐古
「前にいた生徒でよ、こんな奴が居たんだ。いつも無口で友達が一人もいなくて、そいつ男子だったんだけど、二人きりの時に俺そいつに言ったんだ。『勇気出して、周りの奴らに話かけてみろよ』って。そしたらそいつが言ったんだよ。『独りの方がいいです、楽なんで』ってな。まぁ確かに省かれないように、怒らせないように、気を使って言葉を選んで…嫌われないように金魚のフンみてぇに後をついて行って…。それだったら独りでいるのも悪くねぇかもな。昨日及川にああやって言われて思い出したよ。」
椿
「そのままの自分でいいって言ってくれる人が居なかっただけだよ。きっとその子にも……。」
佐古
「お前にも、か?」
椿
「私には居たよ。……ずっと前にね。」
佐古
「ずっと前……か。」
そう呟いた佐古が、窓越しに遠くの空を眺めた。
椿
「先生には居ないの?そんな人。」
少し間を置いて、答えた。
佐古
「んー……居たっけな……ずっと前に。」