自分より大切なもの
車に戻りドアを閉めた時、椿の携帯が鳴った。それは夏樹からの電話だった。椿は少し迷ってから、通話ボタンを押した。
椿
「はい」
夏樹
「……もしもし?椿ぃ?あんた大丈夫だったの??」
椿
「うん、全然大したことない傷だった。」
夏樹
「よかったぁ~……、超心配してたんだからね!」
椿
「ありがとう、夏樹。」
夏樹
「椿が……アタシの名前……呼んでくれた……!!」
椿
「あ、ごめん……馴れ馴れしかった?」
夏樹
「んなワケないじゃん!めっちゃ嬉しいよ!」
椿
「夏樹はあの後、どうしたの?」
夏樹
「もうさー、超大変だったのー……。」
どうやら夏樹いわく、メグミとはまだ連絡が取れていないらしい。
駅にも、よく二人でいるファミレスやカフェにも、メグミの姿は無かった。
夏樹は取りあえず家に帰り、メグミと椿からの連絡をひたすら待っていた。
佐古
「意外と混むんだな、ここのコンビニ。」
買い物を終えた佐古が車に戻ってきた。誰かと電話をしている椿に気付き、佐古はエンジンを付ける手を止めた。
夏樹
「もしかして、今誰かといるの?」
椿
「え、あー……うん……。」
夏樹
「なんだ!ならもっと早く言ってよー、何か邪魔しちゃってごめんね!」
椿
「大丈夫だよ、ってか私こそ夏樹に何も連絡しなくてごめん……。」
夏樹
「ホントだよ椿ー!アタシがどれだけ心配してたかあんた知らないでしょ!」
佐古
「夏樹……?なんだ、池本か?」
椿
「うん、代わる?」
佐古
「あぁ、ちょっと貸して。」
椿は自分の携帯を佐古に渡すと、佐古が買ってきてくれたミルクティーをビニール袋から出した。
佐古
「あ、もしもし、佐古です。」
夏樹
「さこ??え、さこりん?」
佐古
「なんかその名前聞くと力抜けるわ……(笑)」
佐古は呆れたように微笑み、椿の携帯を耳と肩で挟みながら買ってきたコーヒーのふたを開けた。