自分より大切なもの
窓から流れ込んでくる風は、冬の冷たい風。ぽっかりと穴が空いてしまった椿の心を、更に冷たく冷やしてゆく。
せめて幾つかの星が輝いていれば、彼女の心に僅かな光を灯しただろう……。だがその日の夜空には薄く雲がかかり、彼女の心を救いはしなかった。
佐古
「……そんなに嫌がるならもういいから、今日は帰ってゆっくり寝ろ。」
椿の家の前に車を止め、佐古はそう言った。
椿
「うん、ありがとう。」
佐古
「明日、明後日は補習休みにするから、体休めなさい。」
椿
「……はい。」
佐古
「じゃあな。」
佐古が助手席の窓を閉めようとした時……。
椿
「……あ、あのさ。」
佐古
「………?」
椿
「電話……してもいい?……迷惑じゃなければ……。」
佐古は真剣な顔をして、こう言った。
佐古
「迷惑だから絶対にやめろ。」
椿
「…………ぇえ??」
佐古
「っハっハっハ………!冗談だよ、いつでもしてこい(笑)………ぇえ??…だって……ウケる(笑)」
しばらくの間ツボから抜け出せない佐古を見て、椿が車に近寄った。
佐古
「………………?」
バコッーーー!!!
椿は外側から思いっきり助手席のドア下を蹴り飛ばした。車体にうっすらと黒い汚れが残る。
佐古
「ぅわっ!!てめっ!………なにしやがんだこのバカ野郎!」
椿
「バカはてめぇだこのセクハラ教師が!!」
佐古
「あ?俺がいつお前にセクハラしたんだよコラ、言ってみろ。」
椿
「お前のその存在自体がセクハラなんだよ。」
佐古
「てめ……言わしておけば……」
椿
「いいじゃん、そのポンコツ車あんたにお似合いだよ、さいなら!」
椿はそう言い捨てると、さっさと玄関の中へと消えていった。
佐古
「何なんだあのクソガキ!」
佐古は不機嫌なままアクセルを踏み込んだ。靴も脱がずに玄関先に立ち尽くす椿は、自分の行動を深く後悔した。
・・・やっちまった………。