自分より大切なもの
このワンルームの小さなアパートは、亮介が借りた。
“ 二人だけの秘密の場所 “
彼がそう言って初めて愛にこの部屋を見せた時、愛は嬉しくて泣いた。今までのふたりの密会場所といえば……ホテルか、車の中か。
正直、愛はもう駄目かと諦め始めていた時に亮介からこの部屋のカギを渡されたのだ。
愛
「こんなん、諦められるワケないじゃん……。」
亮介よりも早く目が覚めた愛は、ひとり窓から空を眺めながら温かいカフェオレで冷えた手を温め、つぶやいた。スヤスヤと気持ち良さそうに眠る亮介の頬に愛は優しくキスをした。
亮介
「……んん……、メグ……おはよう。」
愛の背中を片手で撫でる亮介は、まだ少し寝ぼけている。
愛
「起きなさい、寝ぼすけさん……奥さん待ってるでしょ。」
亮介
「朝飯食って、美佳(みか)を駅に送ったらそのままこっちに来るから行きたいところ決めといて。」
亮介は寝ぼけながら着替え始めた。最後に腕時計を付け、髪を手櫛で整え、家を出て行った。二人だけの秘密の場所を……。