Ｈero and Ｈeroine〜覚醒の時〜

「しらばっくれんじゃないわよ！！」

先輩たちは、紅葉の言葉にやはり耳を傾けない。ドンと紅葉の体を壁に強く押し付ける。

「またお仕置きしなきゃいけないのね？」

紅葉の肩が震える。

紅葉は、空手の実力はきっと先輩たちより上だ。しかし、試合でもないのに相手に拳を向けるのにためらいがある。

先輩たちはまた紅葉を羽交い締めにした。紅葉の顔には、諦めがある。前は心の中で叫んだ。大丈夫、次は僕が君をーーー助ける番だ。

「やめろ！！」

先輩が紅葉を殴ろうとした刹那、前は自分でも驚くほど大きな声を出しながら姿を見せた。

「前…！？」

紅葉は驚いた表情だ。先輩たちも「誰よ、あんた！」と戸惑っている。前は深呼吸をし、言った。

「愛されたいのなら、愛し、愛らしくあれ！」

前の言葉に、先輩たちはまた戸惑う。

「アメリカの政治家、ベンジャミン・フランクリンの言葉です」

紅葉は未だ驚いた表情だ。しかし、その目に喜びがあることを前はきちんと見ていた。大丈夫だよ、と前は心の中で言う。