ぜんぶカシスソーダのせい
「川田さん、本当にご迷惑をおかけしました。お釣りは結構ですので、これでお会計してください」
「いや……その、これだと多いので……」
「ですができれば、今後はふたりで飲むのはやめていただけますか? いつも来られるとは限らないので」
「あ……はい。すみません」
「ほら、千沙乃。帰るよ。立って」
ほとんど眠っていた千沙乃は、それでも機嫌良くとろりとした視線を元輝に向けた。
「あれー? 元輝だ。なんでー?」
「留守電に自分で入れたでしょ? 店の名前も場所も。『お持ち帰りされちゃうー』って」
「あ、いや、俺は全然……」
帰るタイミングを逸している川田はおろおろと否定を並べるものの、ふたりとも聞いている様子はない。
「オシゴトは?」
「短手数で終わったんだ」
腕を引っ張られて立ち上がる千沙乃は、さほどふらついてはいなかった。
それでも元輝にベタッとしなだれかかる。
「元輝の家に帰るー」
「はいはい」
「それで今日は泊まるー」
「はいはい」
久しぶりの元輝の匂いと、来てくれた喜びに安心した千沙乃は、タクシーに乗ったところまでしか記憶がない。