ぜんぶカシスソーダのせい
心地よい気だるさと元輝の体温に包まれて、千沙乃は幸せなまどろみの中にいた。
つるんつるんと髪を撫でる手が、眠りにいざなう。
「俺、恋なんてしてていいのかな」
千沙乃が眠っていると思ったのか、独り言の音量で元輝は言った。
目をぱちりと開けて千沙乃は元輝を見つめる。
「いいに決まってるじゃない」
少し驚いてから、元輝は悲しげに目を細めた。
「無職で、将来の保障もなくて、未だに仕送りしてもらってるのに?」
「オシゴトしてるじゃない」
「あんなのお小遣い程度だよ」
「学生ならみんなそうでしょう?」
「学生とは違うから」
千沙乃を受け入れてなお迷いを含む腕が、それでも強く抱き締めるので、顔を見ることはできなくなる。
「もっともっと、勉強しなきゃ」
もしかして自分は元輝にとって負担でしかないのだろうか。
答えの出ない疑問が千沙乃を不安にさせる。
けれど、答えが出ないことに安心もして、あのときカシスソーダを飲み過ぎたせいだ。だって、一目見てしまえばあとは一直線だったのだから。引き返したり曲がったりする道なんてなかったのだから。だからカシスソーダが悪いのだ、と、無理矢理な責任転嫁をして、心の安定をはかる。
どうせもう引き返せない。
引き返さないと元輝の背中を強く抱きしめ、深く深くいとおしい匂いを吸い込んだ。