私、あなたのお気に入りに成り下がりました。
長い髪、白い肌、パッチリ二重に露出度の高い服。
膨らんだ胸、細くて長い脚、丁度いい柔らかさのお尻、ぷっくりとした唇。
お金をかけて、あなたのお気に入りに成り下がりました。
私を捨てて、あなたのお気に入りに成り下がりました。
私があなたにしか見せない顔、
あなたはいろんな人に見せている。
私があなたにしか漏らさない声、
あなたはいろんな人に漏らしている。
私と同じ匂いの髪、同じ匂いの服、
同じデザインのパーカー、あなたが買ったマグカップ。
「お揃いの苗字」
私、あなたのお気に入りに成り下がりました。
あなたが笑うと、私も笑う。
あなたが怒ると、私も怒る。
そうしてあなたは私に言うの、
「大好きだよ。」
「私も大好き。」だった。
学生気分の抜けない新社会人が、
最寄りのカフェでお叱りを受ける。
ここをこうして、あそこはああして、
(こっちのほうが効率いいのに。こっちのほうが楽なのに。)
自分の正解はお前にとっても正解だ。
私、あなたのお気に入りに成り下がりました。
潤んだ声で名前を呼ぶ。
かすんだ声で返事をする。
下を触れば潤んだ声。
私の心は乾いたまま。
恋を知らなかった16歳、
恋を知った18歳、
愛を知らなかった18歳、
愛がわからず息絶える。
私、あなたのお気に入りに成り下がりました。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きすら、
知らず現世を去る私、あなたのお気に入りの私。
恋を知らなければ、愛を知っていれば、
私の身体を覆わずとも、私の心を繕わずとも、
幸せになることができたのだろうか。
不幸せを知らずいられたのだろうか。
逃れられないものからも、
逃げ出すことができたのだろうか。
私、あなたのお気に入りに成り下がりました。
私、あなたのお気に入りになってしまいました。
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