月夜の旅
1 旅人ハンス
ハンスは河のほとりにやってきた。

かれがひたすら歩いてきた街道は、その河でゆきどまっていた。

河は豊かな水量をたたえ、音もなくゆったりとながれている。河幅はひろく、向こう岸は
霧にけむっている。

来たぞ。やっと……。

ハンスは街道をふりかえった。

砂塵まいあがる道すじのはるか遠くに山のつらなりがかすかにみえた。

いくつもの山をこえ、数えきれないほどの町や村を通りぬけてきた。そして、やっと、河
のほとりにたどりついたのである。

橋があるはずである。

橋をわたることができれば、ひかり輝く未来がまっている。ハンスはそのように信じてう
たがうことはない。

橋はどこにあるのだ?

ハンスは周囲をみわたしたが、どこにもみあたらない。どこまでも野草がおいしげる河堤
がつづくばかりだ。

橋があるはずのところに小さな石づくりの館がぽつんとあった。

どうやら橋守の館らしい。門前にたっている男が橋守というわけか。



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